「浙江省電子商取引分野の専利1保護に関する指導意見(試行)」は浙江省科学技術 庁と浙江省知的財産局が共同で昨年11月7日に公布し、同年12月15日に施行された。今回の指導意見はインターネット・ショッピングモールにおける専利 権侵害に対する訴えの細部について詳しく規定している。
浙江省は中国のインターネット・ショッピングモール最大手のアリババとタオバオの本社所在地であることから、この指導意見は非常に重要になる。
ただし、指導意見は浙江省内のみに効力が及び、その他地区には適用されない。また、専利権侵害のみを対象としている。
本稿は専利権侵害の苦情申し立て手続きを説明するものである。指導意見は専利権保護の流れを全面的に規範し、特に専利権侵害判断が困難な案件に対して適切な解決が図られるようになる。
一 要点まとめ
指導意見は以下について具体的に規定している。
・ 専利権侵害の苦情申し立てに必要な資料
・ ショッピングモール運営者、ショップ経営者が判断しかねる苦情申立の処理
・ 苦情を申し立てられたショップ経営者が異議を提起するために提出すべき資料
・ 専利権を侵害していないことを立証する条件
・ 市レベルの専利管理部門へ提出できる専利権侵害案件
・ ショッピングモール運営者における単一専利権に対して、苦情が累計100件を超える群体性案件に対する処理
・ 案件処理期限の明確化
二 具体的な内容以下は各要点をくわしく説明する。
1. 専利侵害の苦情申し立て資料 7条
条文:
専利権者はショッピングモールで販売される商品に専利権侵害の嫌疑があると判断する場合、ショッピングモール運営者が作成した苦情申立規則に基づき苦情を 申立て、商品ページを削除するよう要請し、侵害嫌疑のある商品のリンクを無効化することができる。申立てのための資料は以下のとおり。
1 特許、実用新案、意匠の総称。
(1)専利権者の身分証明書類(営業許可書副本あるいは身分証明書複写)、有効な連絡先と住所。他人に委託し申立てる場合は、授権委任証明書も提出しなければならない。
(2)専利権登録証書および専利権権利存続証明
(3)削除・無効化を請求する商品の名称とリンク
(4)侵害嫌疑商品が専利権の保護範囲内に入っていることを示す資料
(5)侵害行為を証明するその他の資料
専利権利害関係者が申し立てる場合、専利権者の授権書あるいは専利実施契約書などを提出しなければならない。専利権者または利害関係者は提出する資料の真実性について責任を負わなければならない。偽りの資料で苦情を申立てれば、法的責任を負うことになる。
説明:
本条は権利者が苦情を申し立てるときに必要な資料と証拠を詳しく規定している。これはショッピングモールごとに要求条件が異なっている場合でも役に立つ内容となっている。
2. ショッピングモール運営者、ショップ経営者が判断しかねる苦情申立の処理 8条
条文:
ショッピングモールの情報だけで侵害を判断するのは困難である。その場合には、専利権者あるいは権利関係人が苦情を申立てた商品の実物を提供するように要求することができる。
ショッピングモール運営者、ショップ経営者が判断しかねる苦情申立は、知的財産権援助センターまたは知的財産仲介サービス機構に委任し、専利権侵害判定コンサルティングの意見書の発行を求めることができる。
専利権者あるいは利害関係者は人民法院、専利管理部門あるいは仲裁機構に専利権侵害商品と一致する法律文書を提出することで効力を生じさせた場合、ショッ ピングモール運営者は商品リンクを削除・無効化するなどの必要な措置を取らなければならない。ショッピングモール運営者は裁判所、専利管理部門、仲裁機構 が発行した効力のある法律文書に対し、直ちに対応を取らなくてはならない。また、損害を与えた場合は、法的責任を負う必要がある。法律、法規、規章または 司法解釈に別途規定のある場合、本規定は適用されない。
説明:
本条はショッピングモール運営者が専利権侵害判断をしかねる場合、知的財産維権援助センターまたは知的財産仲介サービス機構に委任し、専利権侵害判定コンサルティング意見書の発行を求めることができることを明確に規定している。
さらに、ショッピングモール運営者は裁判所、専利管理部門、仲裁機構が有効な法律文書を発行した場合、直ちに対応を取らなければならない。また、損害を与 える場合にあっては、法的責任を負う必要がある。これにより、ショッピングモール運営者が故意に対処しないことを有効的に抑制している。
しかしながら、どのような知的財産仲介サービス機構が意見書を発行できるかについては明確に規定していない。
3. 苦情を申し立てられたショップ経営者が異議を提起するための提出すべき資料 11条
条文:
苦情を申し立てられたショップ経営者は販売する商品が他人の専利権を侵害していない場合、苦情申立て資料を受け取った日から3営業日以内に異議を提起する資料を提出しなければならない。提出する資料は以下のとおり。
(1)苦情を申立てられたショップ経営者の身分を証明する資料(営業許可書副本または身分証明書複写)、有効な連絡先と住所。他人に委託し異議を提起する場合、授権委任証明を提供しなければならない。
(2)非侵害を立証する照合資料
(3)その他の非侵害を立証する証明書類
申し立てられたショップ経営者は提出した異議を提起する資料の真実性について責任を科される。
説明:
本条は申立てられたショップ経営者が異議を提起するときに提出する資料および期限を規定しており、侵害判定及びその後の処理方法を明確に示している。
4. 専利権が侵害されていないことを立証する条件 12条
条文:
以下に掲げる状況の場合には非侵害とすることができる。
(1)専利権侵害とされる商品の販売開始日が専利出願日より前であることを立証できることかつ、商品の構造と外観がはっきり見えること。
(2)人民法院、専利管理部門、仲裁機構がすでに非侵害を立証する法律文書を発行していること。
(3)案件に関わる専利が無効を宣言された場合、または専利権を消滅・放棄する場合。
(4)法律法規の規定に基づき非侵害を立証するほかの状況。
説明:
本条は非侵害を立証する状況を明確に規定し、専利権の非侵害を立証できるかどうかについての法的根拠を提供している。
5. 市レベルの専利管理部門へ提出できる専利権侵害案件 13条
条文:
ショッピングモール運営者は以下に示す社会的影響が強く、判断しかねる専利権侵害苦情案件、専利詐称案件などを市レベルの専利管理部門へ提出し、市レベルの専利管理部門から専利侵害判定意見書、詐称専利認定書を発行するよう求めることができる。
(1)知的財産維権援助センターあるいは知的財産仲介サービス機構が判断しかねる専利権侵害案件の苦情申し立てについて。
(2)浙江省の中枢産業にかかわる案件、専利権の新規性、進歩性、産業上利用可能性が立証できない専利権侵害案件の苦情申し立てについて。
(3)民生安全および社会公共利益にかかわる専利権侵害案件の苦情申し立てについて。
(4)海外、香港、マカオ、台湾にかかわる専利権侵害案件の苦情申し立てについて。
(5)売上高が累計10万元を超える専利詐称案件について。
(6)その他、社会的影響が強い専利権侵害案件の苦情申し立てについて。
説明:
社会的影響が強く、判断しかねる専利権侵害案件の苦情申し立てについて、ショッピングモール運営者は知的財産維権援助センターまたは知的財産仲介サービス 機構に提出するか、それとも市レベル専利管理部門に提出するか、本条は8条と合わせ、明確に指導意見を提出している。
注意すべき点は、第5項は主に商品のパッゲージに他人の専利権登録番号を使っている詐称案件に適用し、専利権侵害には適合しない。
6. ショッピングモール運営者における単一専利権に対して、苦情が累計100件を超える群体性案件に対する処理 18条
条文:
ショッピングモール運営者は専利権者あるいは利害関係者が単一専利権に対して、苦情が累計100件を超える群体性案件を発見した場合、省レベル専利管理部 門に遅滞なく報告しなければならない。そして、その案件は省レベル専利管理部門が処理し、または管轄権のある専利管理部門で法に基づき処理されるべきこ と。省にまたがった案件については、省レベル専利管理部門から国知的財産局へ移送する。
説明:
本条はショッピングモールにおける重大な専利権侵害商品の処理について規定している。また、100件と定量的な表現を用いることで、悪質な専利権侵害案件を抑えることができる。
7. 関係者全員が専利権侵害案件を処理する際の期限について
説明:
専利権侵害案件を処理する際の各段階の期限を詳しく規定する。
これにより、案件を効率的に処理していくことができる。具体的なことは以下のとおりである。
a) 8条 ショッピングモール運営者は5営業日以内に苦情申し立てを審査し、受理するかどうかを決定する。
b) 11条 苦情を申し立てられたショップ経営者は3営業日以内に異議を提起できる。
c) 15条 各知的財産維権援助センターは3営業日以内に専利権侵害判定コンサルティングの意見書を提出する。
d) 14条 市レベルの専利管理部門は3営業日以内に苦情申し立てを審査し、受理するかどうかを決定する。
受理に同意する場合、5営業日以内に当事者へ連絡し調停を行う。
近年、中国の電子商取引が急速に発展するにつれ、インターネット上で発生する権利侵害案件は商標権侵害に留まらない。昨年、初めて公布されたインターネッ トワーク取引管理弁法から、今回の「浙江省電子商取引分野の専利保護に関する指導意見(試行)」に至るまで、中国政府はインターネット上の侵害案件の規制 を強化する姿勢を明確にした。われわれはこれからもインターネット上での権利保護の関連法律に引き続き注目し、新しい規制が公布され次第、権利者様と情報 の共有を行っていく。
上海博邦知識産権服務有限公司
模倣対策事業部
インターネット・ワーキング・グループ(BIWG)
2015年01月20日