はじめに
杭州市インターネット取引管理暫定弁法(以下、暫定弁法)が本年2月27日、杭州市人民政府第36回常務会議で可決され、5月1日から施行される。これは インターネット取引に関する中国初の地方法規である。今回の暫定弁法は国家工商行政管理総局が2014年公布したインターネット取引管理弁法を基本に、よ りくわしい規定を加えたものである。
本稿はそれらの規定を挙げ、権利者様のご参考とする。
一.制定の背景
電子商取引に関する苦情件数が急激に増加している。また、それらは杭州市に集中する。
杭州市は中国を代表するECサイト・アリババとタオバオの本拠地である。杭州市市場監督管理局が受理した電子商取引に関する苦情件数は2010年から2013年までの4年間、それぞれ1999件、4500件、12309件、18952件となっている
市場監督管理局はその理由のひとつを、電子商取引の規模の拡大としている。また、ネット・ショッピングモール運営者はネットショップに関する情報の公開を 十分にしていなかった。入手できる情報が少なく、ネットショップの工商登記情報の調べ方がわからないので、消費者はネット・ショッピングモール運営者の登 記所在地の行政機関に苦情を申し立てるしかなかった。そのため、全国の電子商取引に関する苦情が杭州市に集中することになるわけである。
二.暫定弁法に加えられた規定
国家工商総局が公布したインターネット取引管理弁法に対し、暫定弁法は以下の規定が追加されている。すなわち、
1.ネットショップの登記情報の更新
2.電子商取引における8つの禁止行為
3.共同購入を行う際の資格審査
4.知的財産権保護制度の創設
5.紛争発生時にネットショップ経営者に関する情報の提供
6.ネット・ショッピングモール運営者による消費者利益担保金制度の創設
7.ネットショップ経営者の信用情報システムの創設
8.違法な電子商取引に従事することへの規制
三.詳細内容
以下、それぞれにつき解説を試みる。
1.電子商店の登記情報の更新(8条)
条文 | 電子商取引に取り組む経営者は工商登記をしなくてはならない。ネット・ショッピングモールで事業を行う場合、ネット・ショッピングモールに工商登記情報を提出しなくてはならない。 工商登記条件を満たさない自然人が電子商取引を行う場合、ネット・ショッピングモールで事業運営すべきで、ネット・ショッピングモールに身分証明、事業場 所、連絡方法などの情報を提出しなくてはならない。関連情報を提出しない場合、ネット・ショッピングモールはサービスを提供してはならない。 ネット・ショッピングモールで電子商取引を行う経営者の営業許可証に記載される登記事項または自然人身分情報、事業場所、連絡方法が変更された場合、変更後15日以内にネット・ショッピングモールに新しい情報を提出しなくてはならない。 |
解説 | ネッ ト・ショッピングモールに提供した情報が変更された場合、15日以内にネット・ショッピングモールにあたらしい情報を提出しなくてはならない。これで権利 者が苦情申し立ての際、ネット・ショッピングモールに提出する侵害業者の情報が業者登記情報の変更で無効になることを防止できる。 |
2.電子商取引における8つ禁止行為(10条)
条文 | 電子商取引において以下のことをしてはならない: (一)著名サイトのドメイン名、著名ネットショップの店名、著名アプリの特徴的なロゴを無断使用すること、または著名サイトのドメイン名、著名ネットショップの店名、著名アプリの特徴的なロゴに類似するものを使用し、商品社に混同を生じさせること (二)政府部門または社会団体の標識を無断で使用、偽造すること (三)他人が販売した商品および提供したサービスに対し、悪意をもって評価またはけなすこと、または虚偽苦情や告発すること (四)悪意をもって大量購入後、大量返品または受け取り拒否し、他人の利益を損なうこと (五)電子商取引の虚構、または取引の虚構に便宜を図ること (六)技術を利用し、検索やランキングの結果を操作すること (七)虚偽の商品またはサービス情報を発表すること (八)その他の国家的利益、公共の利益、他人の合法的利益を損うこと |
解説 | 現在、ネットショップの不正行為が横行している。電子商取引において、模倣品や欠陥品の販売、虚偽の商品情報の提供など、権利者の知的財産権を侵害することが非常に多い。それは市場に大きな被害をもたらしてきた。 電子商取引を管理する完備された地方法規を制定することにより、さまざまな不正行為や侵害行為が正しく認定され、迅速に法的根拠を見つけることができる。そのことにより、電子商取引の健全な発展を促進し、有効に管理できる。 |
3.共同購入を行う際の資格審査(12条)
条文 | ネット・ショッピングモール運営者が共同購入を行う場合、共同購入の商品またはサービスの提供者の主体資格、商品の品質証明書類を審査し、記録に残さなくてはならない。 ネット・ショッピングモールが業界の特徴かにしたがい、共同購入商品とサービスの参加条件を制定し、在庫管理、商品配送、アフターサービス、価格などに関する共同購入規則を制定することをすすめる。 |
解説 | 以 前は明確な資格審査制度が設けられていなかったため、共同購入サイトへの参加が安易であった。そのため、共同購入の商品またはサービスの品質に差異がみら れ、模倣品販売などの侵害行為が頻発した。12条はネット・ショッピングモール運営者が共同購入の申請者の資格を審査すべきことを規定し、完備された共同 購入規則を制定することをすすめた。これにより、共同購入サイトへの参加条件を厳しくし、侵害行為を減らすことができる。 |
4.知的財産権保護制度の創設(21条)
条文 | ネット・ショッピングモール運営者は知的財産権保護制度を創設し、必要な措置を講じ、商標権、著作権、特許権、意匠権などの権利を保護しなくてはならない |
解説 | 杭 州市のアリババとタオバオは以前、知的財産権保護制度を創設したが、ほかのネット・ショッピングモールの状況は不明である。この規定は杭州市にあるすべて のネット・ショッピングモールが知的財産権保護制度を創設することを促し、消費者や権利者の苦情の便宜を図るものである。 |
5.紛争発生時におけるネットショップ経営者に関する情報の提供(32条)
条文 | ネット・ショッピングモール運営者は知的財産権保護制度を創設し、必要な措置を講じ、商標権、著作権、特許権、意匠権などの権利を保護しなくてはならない。 消費者とネットショップ経営者とのあいだに紛争が生じたとき、消費者はネット・ショッピングモール運営者に調停を請求することができる。ネット・ショッピングモール運営者は消費者の請求を受けたのち、7営業日以内に処理しなくてはならない。 消費者が紛争時に、ネット・ショッピングモールに対し、ネットショップ経営者の名称または氏名、住所、連絡方法などの主体資格情報の提供を請求する場合、 ネット・ショッピングモール運営者は請求を受けてから、15営業日以内に如実に提供しなくてはならない。 |
解説 | 多くのネット・ショッピングモールが個人情報の保護を理由として、ネットショップ経営者に関する情報提供を拒否してきた。この規定の制定により、権利者が消費者としてサンプルを購入することで、より早く、正確に侵害業者の登記情報を知ることができる。 |
6.ネット・ショッピングモール運営者が消費者権利担保金制度を創設(33条)
条文 | ネット・ショッピングモール運営者がネット・ショッピングモール内のネットショップ経営者に現金受取、資金凍結などの方法について消費者権益担保金を設立する場合、ネットショップ経営者と担保金額、管理、使用などにつき、明確な約束をしなくてはならない。 ネット・ショッピングモール運営者は定期的に消費者利益担保金の使用状況を公開しなくてはならない。 |
解説 | 消費者権利担保金の設立により、侵害業者に対する処罰は店舗の閉鎖のみならず、担保金没収にまで至り、侵害業者に与える損害が増加し、再犯防止にもつながる。 |
7.ネットショップ経営者の信用情報システムを創設(35条)
条文 | (杭州)市市場監督管理部門は関連行政管理部門、業界協会、金融機構とともに、ネットショップ経営者の信用情報システムを設立し、社会にネットショップ経営者の主体資格情報、処罰記録などの情報を公開しなくてはならない。 ネット・ショッピングモール運営者は他人の利益を侵害したことで追放されたネットショップ経営者の情報を提供しなくてはならない。 |
解説 | ネッ トショップ経営者の信用情報システムの設立により、社会にネットショップ経営者に関する正しい情報を公開できる。消費者は虚偽の高評価に騙されずに、模倣 品販売などの侵害行為のあったネットショップ経営者を警戒することになる。また、苦情申立人はネット・ショッピングモールがネットショップ経営者に下す処 罰内容をより早く知ることができる。このことにより、公正で透明かつ、合理的、合法な取引が確保される。 |
8.サイトを開設し、違法な電子商取引に従事することへの規制(43条)
条文 | 違 法にサイトを開設し、電子商取引に取り組む場合、または合法に開設されたサイトを利用し、違法な電子商取引に取り組む場合、市場監督管理部門と関連行政管 理部門はサイト運営者の登記所在地の通信管理部門にサイトの接続サービスを一時的に遮断または停止することを要請できる。市場監督管理部門と関連行政管理 部門は違法行為への調査を終え、サイトの閉鎖またはサイトの接続サービスを停止する必要があれば、サイト運営者の登記所在地の通信管理部門にサイトの閉鎖 またはサイトの接続サービスを停止することを要請できる。 |
解説 | ネット・ショッピングモール以外の侵害サイトへの苦情は常に権利者にとっての難点である。この規定は苦情処理方法および管理部門の処理方法を明確し、ネット・ショッピングモール以外の侵害サイトという苦情の盲点を解決したと言える。 |
おわりに
暫定弁法は電子商取引企業の行為を規制し、消費者利益の保護を強めるとともに、電子商取引企業の法的責任も加重した。この法規は杭州市が電子商取引を規制 する新たな試みである。国家工商行政管理総局が2014年公布したインターネット取引管理弁法より内容がより詳しいものの、現時点では杭州市のみで施行さ れる。
上海博邦知識産権服務有限公司
模倣対策事業部
インターネットワーキンググループ 陳堅敏
2015年04月15日