知的財産権紛争における商号問題の本質は「 ただ乗り(中国語:傍名牌)」である。代表的な行為類型は、他人の著名商標、または著名企業の商号と同一・類似の標章を自らの商号として登記するというも のである。また、下請け企業に当該商号を使用した商品の製造を委託し、これらの商品が著名企業となんらかの関係を持っていると需要者に誤認させ、不当な利 益を得るというものもある。
商号侵害案件はおおまかにわけて以下の二つの類型に分けられる。
1、香港での商号登記
香港における商号登記の案件で、たとえば「奔弛国際(香港)有限公司」といったものがある。「奔弛」とはメルセデス・ベンツを意味する。
2、中国大陸での商号登記
中国大陸における商号登記の案件で、たとえば「武漢奔弛電器有限公司」がある。
本稿は当社の実務経験に基づき、中国大陸で登記された侵害商号を抹消または変更させるための法的根拠、必要な証拠、操作方法について簡単に説明し、権利者様のご参考とする
一. 法的根拠
法律・法規 | 条文 |
商号登記管理規定5条 | 登録主管機関は登録済みの不適当な商号を正す権利を有し、上部登録主管機関は下部登録主管機関による登録した不適当な商号を正す権利を有する。 登録済みの不適当な商号については、いかなる者は主管機関にその修正を求めることができる。 |
商号登記管理実施弁法41条 | 既登記にかかる商号が、その使用の過程で公衆に欺瞞または混同を生じさせたとき、または他人の適法な権益を侵害したときは、不適切な商号と認定して是正しなければならない。 |
商標と商号における若干の問題を解決することに関する意見7条 | 商標と商号の混同の事件を処理する場合、以下の条件に合致しなければならない:
(一)商標と商号の混同が生じ、初めの権利者の合法的権益が損害されている (二)商標はすでに登録され、商号はすでに登記されている (三)商標登録日あるいは商号登記日から五年以内に請求が提出されていること (請求はすでに提出されたがまだ処理されていないものを含む)。ただし悪意の登録あるいは悪意の登記であるものはこの限りでない。 |
馳名商標の認定と保護に関する規定13条 | 当事者は、他人がその馳名商標を商号として登記し、公衆を欺瞞し又は公衆に誤解を与え得る場合、商号の登記機関に当該商号の抹消を請求することができる。商号の登記機関は「商号管理規定」に基づき、処理しなければならない。 |
反不正当競争法5条 |
事業者は以下に記載する不正手段を用いた市場取引きにより、競争相手に損害を与えてはならない。 … (3)勝手に他人の商号または姓名を使用して公衆に当該他人の商品であるかのを誤認させること。 |
最高人民法院による登録商標、商号と既存権利の衝突についての民事紛争案件審理の若干問題に関する規定2条 | 原告は他の商号が既存商号と同一あるいは類似しており、公衆にその商品の出所に対する混同を生じさせることに足り、反不当競争法5条3項の規定に違反するとして訴訟を起こす場合、民事訴訟法108条規定に合わせ、人民法院は受理しなければいけない。 |
最高人民法院による商標民事 紛争案件の審理における.法律適用の若干問題に関する解釈1条 | 以下の行為は商標法5条の5項に規定された他人の登録商標権を侵害する行為に属する。 (1)他人の登録商標と同一または類似する文字を商号とし、関係公衆に誤認を生じさせる可能性があるもの。 |
- 二. おもな対策方法以下とおりの対策が挙げられる。
警告状送付(弁護士レター)
2. 行政機関に申立て(管轄機関は工商行政管理局)
3. 民事訴訟提起ただし、警告状による侵害行為是正の成功率は高くないことから、行政ルートまたは司法ルートを通じて解決するのが一般的である。その場合、証拠提示は不可欠である。
三. 必要な証拠
行政ルートまたは司法ルートを通じて侵害商号の抹消・変更させる場合は、以下の2点を正しく証明できるかどうかが鍵となる。
権利者の商標、商号の著名性
侵害者の悪意以下は証拠の例である(一部のみ)。
証拠 | 例 | |
(一) 関連公衆による、その商標に対する認知度を証明する資料 | ||
1 | その商標に関する名誉証明のコピー | 業界内の権威機構に選ばれた「年度知名ブランド」など |
2 | 公信力の有する権威機構、業界協会による公布・提供された、その商標を使用された商品・サービスの市場シェアの証明資料 | 業界協会の年報など |
…… | ||
(二) 商標の持続的な使用期間及び関連商品・サービスの売上を証明する資料 | ||
3 | その商標は初めて使用されてから現在のところまでの商品またはサービスを証明する写真 | グローバルで使用されている写真 中国国内で使用されている写真 |
4 | 関連商品の過去5年の販売実績及び関連証明資料 | 監査済み財務諸表 |
…… | ||
(三) 商標に対する持続的な宣伝期間、程度、地理範囲の関連資料 | ||
5 | 関連商品のメディア報道のコピー | 関連報道のコピー |
6 | 関連商品の宣伝費用の統計及び関連証明資料 | 監査済み財務諸表 |
…… | ||
(四) 悪意を証明する資料 | ||
7 | 侵害者による侵害商号を突出使用した証拠 | 広告看板や商品包装に侵害商号を突出使用した部分(すなわち権利者の商標を突出使用した部分) |
8 | 模倣品または侵害品を製造・販売する証拠 | 侵害商号の使用のみならず、侵害品の製造・販売をしていることがあれば、サンプルの公証購入や、行政摘発などを通じて証拠を固めることが重要。 |
………….. |
以上に挙げた証拠をすべて揃えるのが理想的だが、多くの場合は困難である。これらの証拠はすべて必須ではないが、多ければ多いほどよい。また、権利者の商標の知名度が高ければ、挙げられた証拠はが多少すくなくても、案件の処理には支障がない。
四. 手続きフロー
当社は権利者様のご依頼を受け、行政ルートを通じて数件の侵害商号を抹消させることに成功した。そのフローは以下のとおりである。
五. 所要期間
行政ルートの場合は3~6ヶ月、司法ルートは6-12ヶ月である。
六. 結論
以上の手続きフロー図にあるとおり、警告書を送付したあと、侵害者が自主的に侵害商号を抹消・変更するのが望ましい。だが、通常は警告書の送付だけでは侵害者に無視されることが多い。そのため、行政ルートや司法ルートで問題解決するほかはない。
当社の実務経験から、侵害商号にかかわる問題の解決に関して、工商管理局は数年前より積極的になっていることがわかった。そこで、権利者様は行政ルートを通じて侵害商号の問題を解決されることをお薦めする。
執筆者:上海博邦知識産権服務有限公司
模倣品対策事業部 顧客部
2015-05-13