【用語説明】
本文では現行の商標法を「現商標法」、2014年5月施行の商標法を「新商標法」と表記します。

商標異議制度とは自然人または法人或いはその他組織が法定期限内に、商標登録出願者が商標局の仮査定を通過し、かつ公告された商標に対して、当該商標の登 録を拒絶するよう商標局に求める制度を指す。異議プロセスは商標登録のプロセスにおいて非常に重要であり、社会公衆の利益と先行権利を保護する機能があ る。しかし、今までの商標異議申立審査状況から、そのプロセスが非常に長い点、そして悪意による異議申立現象が後を立たないという点が問題としてありまし た。この為、2014年5月より施行の新商標法においては、商標異議申立制度についての見直しが行われました。主な変更点は以下の通りである。

1.異議主体の変化
法的根拠:新「商標法」三十三33条
仮査定を通過した公告商標が公告日から三ヶ月以内に、先行権利者、利害関係者が本法第十三条第二項及び第三項、第十五条、第十六条第一項、第三十条、第三 十一条、第三十二条に違反していると判断した場合、或いは何人が、第十条、第十一条、第十二条の規定に違反していると判断した場合は、商標局に異議申立を することができる。公告期間満了まで異議申立がないときは、登録を許可し、商標登録証を交付してこれを公告する。

コメント:現商標法において「何人も異議申立が出来る」と規定している。当初「何人」を異議の主体としたのは、立法の主要目的が社会公衆の商標審査に対す る監視を期待してのことであった。かつ商標局内部には自らの誤りを修正する制度があるのだ。しかし実践から、社会公衆が自ら異議申立費用を負担してまで商 標審査作業の監視を行うことはほとんどないことが証明された。また、商標局の審査員が異議を提出する数も日に日に少なくなってきており、上述の立法目的は 達成できない結果となった。

また期待に反して、「何人」という規定はかえって悪意(不正の目的)を持った者に異議申立がしやすい環境を与えた。悪意をもった異議申立者は、他人の先行 商標もしくはその他権利に対し異議を申し立て、仮査定を通過して商標登録されるのを妨げ、被異議者から高額な異議取り消しの費用を要求するのである。

新商標法は、異議をそれぞれ絶対条件と相対条件の2つに分類した。絶対条件の異議の主体資格は「何人」と定めたが、異議理由を商標法第十条(合法性)、第 十一条(識別性)、第十二条(機能性)の違反と限定した。相対異議条件の主体は先行権利者と利害関係者に限定し、異議理由を十三条第二項(著名商標)、十 五条(被代表者と被代理人商標)、第十六条第一項(地理商標)、第三十条(先行商標)、第三十一条(同時申請)、第三十二条(先行権利)の違反と限定し た。
今回の異議主体の改正により悪意(不正の目的)からの異議申立の件数が大幅に減ることが予想される。これは商標出願者の権益保護、商標登録の秩序の維持に 有効である。しかし弊社の過去の代理経験から、一部の異議申し立てに対する成功率は高くないが、戦略として相手の登録時間を引き延ばすという視点から異議 を申し立てる必要がある場合、一部の異議申立人は、自身の名義で申し立てることによる被異議人からの反撃や報復を避ける為、第三者名義で申し立てる傾向に ある。新商標法の実施後では、この類の異議戦略を実施するのは比較的困難となる可能性がある。

2.異議申立て審査期限の明確化
法的根拠:新「商標法」第三十五条35条第一1項
仮査定を通過し公告になった商標に対し、異議申立を提起した場合、商標局は異議申立人と被異議申立人の事実と理由を聞き取り、調査及び事実確認した後、公 告期間が満了した日から12ヶ月以内に登録の可否を裁定しなければならない。またその裁定を異議申立人と被異議申立人に書面にて通知しなければならない。 特別な事情があって延期を要する場合、国務院工商行政管理部門の許可を得たうえで6ヶ月の延期を与えられる。

筆者は今回の立法に参与する商標局職員との交流から、現在進められている「商標法実施条例」の改正の中で、異議申立人の証拠補充の提出期限を3ヶ月から30日に変更し、よりいっそう異議審査期間の周期圧縮に努める予定だということを聞いた。

コメント:
1.異議申立案件において審査期限を12ヶ月と設定することにより、異議申立の審査時間が長いこと、そして商標権の確立に長時間を要するという現状が改善 されることが期待できる。また、地方の工商行政管理局(AIC)は、冒認出願商標がまだ異議申立段階にある場合は、通常は摘発を実施したがらないというの が実務問題として存在する。有利な異議申立結果をより早く入手できれば、権利者の権利保護に有益である。

2.審査期限の明確化によるプレッシャーから、最終的に商標局の異議審査の質にどのように影響するかは現段階ではまだ不明である。前出の商標審査員は、審査期限のプレッシャーにより、審査期限延期を申請する案件が予想を上回る可能性が高いと漏らした。

3.異議申立の証拠補充の期限が3ヶ月から30日に改正されたが、異議申立人にとっては証拠収集するのに、特に悪意(不正の目的)登録を行った相手の証拠を準備する時間的プレッシャーは大きいと考える

3、異議プロセスの簡略化

法的根拠:
新「商標法」第三十五条第二項
商標局が登録を認定した場合、商標登録証を交付しこれを公告する。異議申立人に不服がある場合は、本法第四十四条、第四十五条の規定に基づき、商標評審委員会に当該商標の無効審判を請求することができる。

新「商標法」第三十五条第三項
商標局からの登録拒絶の決定に、被異議申立人がこれを不服とする場合は、通知書を受領した日から15日以内に、商標評審委員会に査定不服審判を請求するこ とができる。商標評審委員会は査定不服審判請求申立書を受領した日から12ヶ月以内に再審決定を下し、かつ異議申立人と被異議申立人に書面で通知しなけれ ばならない。特別な状況により延長しなければならない場合は、国務院工商行政管理部門の批准を経て、6ヶ月まで延長することができる。被異議申立人は商標 評審委員会の決定に不服がある場合、通知書を受領した日から30日以内に、人民法院に訴えを提起することができる。人民法院は異議申立人に第三者として参 加することを通知しなければならない。

新商標法に基づき、異議申立が成立しないと判断した場合は、商標局が直接登録を許可し、商標登録証を交付することができる。異議申立人に不服がある場合 は、商標評審委員会に無効審判を請求するしかないことができる。また、たとえ商標局の異議申立が成立した場合でも、商標評審委員会が裁定を変更した場合 は、直ちに登録が認められる定される。その場合は、異議申立人にはやはり無効審判請求宣告の請求プロセスという手段しか残っていない。また、無効審判期間 中にはでも、当該商標が登録済み商標という事実とその使用を阻止することができないには影響を与えない。

■異議申立フローチャート

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コメント:TRIPS 第62条5項の規定に「本条第4項が指すいかなるプロセスにおいても、行政機関が下した最終決定については、司法又は準司法当局の審査を受けなければなら ない。異議申立、または行政取下げが成立しなかった場合、当該プロセスの根拠が商標無効請求訴訟において問題なければ、この決定に司法審査を提供する義務 はない。」とされている。上述のTRIPS協定の規定は、今回の新商標法において異議申立が成立しなかった場合、司法審査を取消す際の重要な理論及び法的 根拠になると考えられる。

下記要因を考慮した場合、商標局が出願商標の登録を認定するかどうかを直接判断することは異議申立人にあまり有利ではないと考えられる。

1、目下、我が国での異議審査の成立率は10%足らずである。弊社の過去の代理経験から、商標局の審査尺度と基準は商標評審委員会と比べれば、明らかな差異があるのは事実である。商標評審委員会が商標局の決定を覆した事例は決して少なくない。
2、異議審査期限のプレッシャーが非常に大きいことから、商標局の審査の質が影響を受ける可能性も否定できない。
3、商標局の異議審査は比較的閉鎖的なプロセスであり、商標評審委員会の審査のような双方の証拠交換の制度がないため、異議申立人が異議案件の審理に介入することができない。

筆者の一部の商標評審委員会メンバーとの交流から、彼らも同じような懸念を抱いていることがわかった。

4.信義誠実条項を明記、冒認出願に対応

法的根拠:
新「商標法」第七条
商標の出願登録と使用においては、信義誠実の原則に従わなければならない。

新「商標法」第十五条第二項
同一又は類似商品において出願した商標が登録されていない他人の先行使用商標と同一又は類似商標に当たる場合、出願人が他人と前項の規定以外の契約書、業 務取引関係又はその他の関係で他人の商標が存在している事を知っていた場合、他人が異議を申立てた場合には、その登録を認定しないこととする。

コメント:新「商標法」は信義誠実の原則が商標登録及び管理においての地位と役割をさらに強化し、悪意による登録案件の審理の促進と指導に積極的な役割を 果たすことが期待される。新「商標法」第十五条第二項はまさしく同原則の体現と言える。これに拠れば、明らかな悪意を持った出願に対して、先行権利者の商 標の知名度がそれほど高くなくても、その登録を抑制できるようになる。

■権利者が留意すべき事項

新商標法における異議制度の再構築については、異議主体の限定、異議審理期限の明確化、異議申立が成立しなかった場合にはすぐに登録が認められるという条 項から、比較的深刻な問題となっていた悪意による異議申立の抑制に重点を置いているのがわかる。ただ、悪意による出願への制裁は未だ不十分であり、異議申 立人と被異議申立人の権利を比較した場合には、その権利が不均等で、異議申立人のそれが著しく制限されていることがわかる。そのため新商標法の施行後、新 しい異議制度に対応するために、作業手順等の見直しが必要である。参考までに、以下に弊社の意見を述べる。

まず、かつての不服審判という行政救済制度が無くなるため、異議申立て案件においてはその事前準備をよりいっそう重要視するべきである。今後は異議申立て が成立しない場合は、被異議申立て商標が直接登録されることになるため、全面的かつ詳細な異議申立理由書、法律条例の引用、効果的な証拠書類準備が極めて 重要になる。異議申立ての成功率を上げるためには、商標権者は可能な限り証拠を全面的に集める必要がある。

次は、冒認出願商標の出願人の悪意(不正の目的)に関する証拠の収集作業を重視することである。新商標法では、商標登録と商標異議申立の審査主体がいずれ も商標局であること。今までの案件から見れば、商標類似及び商品類似の観点のみから商標局を説得するのは通常に困難であることがわかる。新商標法では、悪 意による出願人に対する打撃がより厳しくなったことから、出願人の悪意に関する証拠を提出できるかどうかが、異議申立の勝敗を左右することになる。

最後に、証拠収集の効率化を重視すべきである。つまり、証拠収集のスピードを速める必要がある。新商標法の「実施条例」では、異議申立ての補充書類の提出 期限を今の3ヶ月から30日に短縮する可能性が高い。従って、証拠の収集時間を大幅に短縮させる必要がある。具体策としては例えば、第三者の出願商標への ウォッチングのタイミングを繰り上げることが効果的と言える。これまでは公告段階でのウォッチングが一般的であったが、今後は出願段階でのウォッチングが 重要になってくる。悪意が感じられる商標に対しては公告される可能性を分析し、公告となる可能性が高い商標に対しては、早い段階からその悪意の証拠を収集 するために背景調査を実施することも可能である。背景調査により、実際に商標権侵害行為を実施しているかどうかを把握し、場合によっては摘発を実施して悪 意を証明するための証拠固めを対応策として講じることもできる。

 

上海博邦知識産権服務有限公司
執筆者:登録事業部 弁護士 銭旻
2014年05月13日