まえがき:
多くの事例が示しているとおり、大手企業の著名商標に対しては、行政・司法ともに積極的な保護の姿勢を示してきた。著名商標に対する模倣は、「悪意があ る」と認定されやすいし、類似するかどうかの判定基準も一般商標に比べ、低くなる傾向が見られる。これは大手会社の「見えない特権」といってもいい。しか し、著名商標といえども、商標権保護に熱心でなければ、この「見えない特権」がすぐなくなり、保護の強度も普通の商標と同じものになってしまう。本文は商 標審査の実践と結びつけ、二つの著名商標の審査動向を例に、このテーマを探究してみたいと思う。
1. 商標審査基準における著名商標の保護
商標局と商標評審委員会が発布している商標審査基準では、著名商標の保護について、以下のとおり規定している。
・商標審査基準 第三部「商標の同一、類似の審査」
16.商標は他人が持っている一定の知名度又は強い顕著性のある先行文字商標を完全に含むものであって、関連公衆に商品又は役務の出所を誤認させる恐れがあるものは、類似商標と判定される。
当該条項は商標審査基準においては重要なものであり、適用される事例もすくなくない。しかし、同じ周知性がある商標でも、実際の審査状況にはおおきな違いがあると言える。以下二つの事例をご覧いただきたい。
2. 事例紹介
事例1:某著名キャラクター商標「高崎GOJE」※
「高崎GOJE」はある著名キャラクターに関する商標である。当該ブランドは数十年の歴史があり、中国で一定の影響力を維持してきた。
商標の構成要素としての「高崎」、「GOJE」はいずれも造語(恣意的商標)である。したがって、審査官は他人の出願商標が本件商標の文字を完全に含んだ 商標に注目し、上記条項に基づき、類似商標として出願は拒絶されるべきである。しかし実際は、「高崎兎」・「高崎熊」・「愛高崎」・「迪高崎」など「高 崎」を含んだ、前後の単語に意味がない文字商標が全て登録されている状況である。
事例2:某著名電子製品ブランド 「西华 SIWA」※
「西华 SIWA」商標の現状を見てみよう。ウォッチングしている中で、重点区分(7・9・11)においては、類似する商標の登録がほとんど見られない。つまり、 「西华 SIWA」商標は、第三者による冒認出願や抜け駆け登録に対し、強い抑止力を持っているといえる。
3. 検討
ふたつの事例を比較すると、商標局の審査は商標審査基準を厳守しておらず、観点も不明確のように見える。これは商標権者の権利保護の姿勢に起因すると考えられる。
最も重要な要因は、「高崎GOJE」商標の権利者は商標保護への注力が足りず、類似商標を発見した場合でも、積極的に措置を取っていないことである。
審査員が「高崎」商標と類似する商標を審査する際、同様の類似商標がすでに登録されていることがわかると、審査標準一致の原則に従い、単に「高崎」商標の 著名度を根拠に出願を拒絶するのは難しい。したがって、先行商標が多ければ多いほど、類似商標に対する商標局の態度はだんだんゆるくなるという悪循環に 陥っている。その結果、「高崎」の前後にほかの文字を加える事で全て登録が可能となる。多くの類似商標の登録事例がある事で、権利侵害者による類似商標出 願の意欲を増長することになってしまう。
最近、「高崎」商標の権利者はこの商標の保護に力を入れ始めてきた。しかし、次々と出願される類似商標に対抗し、ゆるい審査標準を覆すためには、以前より何倍、何十倍もの費用と労力が必要になる。
一方、以前から「西华」商標の権利者は権利保護を重要視している。類似商標があればすぐ対応し、異議申し立てに向け十分な事前準備をする。異議申立てが認 められなくとも、手順に従い、類似商標が取消されるまでの法的対応を行う。「西华」権利者のこのような積極的な権利保護活動はよい影響をもたらしている。
この事で、「西华」の類似商標が登録される事例はほどんとない。類似商標を出願しても異議申し立てを提起され、拒絶されることで、時間と労力の無駄だとい うことが模倣者たちもわかってきた。また、審査官は大量の類似商標が無効にされると、今後の審査を厳しくせざるをえない。現在、「西华」商標の類似商標は 仮査定の段階で拒絶される場合が多い。
以上の二つの事例を比較すると、権利者による類似商標に対する措置が審査基準に大きく影響を与えていることがわかる。模倣者たちを放任しておけば、自らの 商標の保護強度が低くなり、一般の商標と同等になり、著名商標が有する特別の保護措置が失われてしまうことになる。それだけでなく、著名商標の希少性が損 なわれるとともに、商業価値が減少し、企業の著名性と名声に計り知れない損害をもたらす。
※機密情報に関わる為、本文の商標名称を変更して記載している。
執筆担当 上海博邦知識産権服務有限公司
IP登録事業部
部長 弁護士 銭 旻
商標代理人 唐佳楽
2014年08月27日